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● 第3回 三国志学会
日時:2008年9月14日(日)
場所:大東文化大学板橋校舎 多目的ホール
主催:三国志学会

【概要】
 2008年9月14日、大東文化大学にて第3回 三国志学会が執り行われた。今回の研究発表は2件、講演会は3件という内容。1枚目の写真で分かる通り、前回の2回目と比較して今回の出席者は少ないように感じた。今回の特筆すべき特徴は以下の2点。

(1)一般の三国志サイトの管理人に研究発表の場が設けられた。
(2)映画「レッドクリフ」公開間近ということで、エイベックス社員が広報に来た。

 (1)について、石井先生によると『今後もこういう発表をサイト管理人にお願いしたい』との言。これはおそらく、非専門家である一般愛好家を呼び込もうとする意図があるのだと考えられる。これについての個人的意見は後でまた触れたい。
 (2)については、大東文化大学の渡邉先生が邦訳を担当していることもあり、このような機会が設けられたとのこと。昼休みに上映した部分は先のカンヌ国際映画際で上映したものと同一という説明があった。今後はエイベックスが総力を挙げて各言論機関とタイアップしながら三国志ブームの浮揚に努めると述べていたが、果たしてどうであろう。今後は「レッドクリフを見て三国志が好きになりました!」という人が出るのか否か。一過性のブームに終わらないか危惧をしている。
開会前の様子
開会の辞(狩野直禎会長)
矢田博士:「魏における五言詩の流行と西晋における四言詩の盛行について」
綿谷直之・清水健史:「史実と民間伝承からみる三国志遺跡」
同上。演義及び正史に登場しない呉の谷朗の墓。
【研究発表及び講演会概要】
1. 魏における五言詩の流行と西晋における四言詩の盛行について
 本研究の目的は、詩歌の流行をその時代の政治体制から分析するという点にある。従来の詩歌研究は思想面や文化面を主な切り口として行なわれてきたが、今回の発表はそれらとは異なる切り口を提供せんとするものである。質疑応答では従来の詩歌研究の切り口とは大きく異なる点に批判が及んでいたが、むしろそれこそが本発表の目的である。
 さて、今回の発表はこれまで積み重ねてきた研究論文を踏まえての発表であった。主な論点は以下の通り。

○漢代は儒教が尊ばれた為、「詩経」で重要視された四言詩が詠われてきた。
○五言詩は通俗的な詩形であり、儒者からは「奢侈だ」として敬遠された。
○曹操らは覇権確立の為、儒教のアンチテーゼとして五言詩を奨励し、自身も詠った。
○五言詩の流行には曹操の妻で倡家出身の卞夫人の影響もあったと省察される。
○司馬懿らは知識人層を取り込む為、儒者の尊ぶ四言詩を奨励した。

要は曹操が儒家に対抗する価値基準を設定するために五言詩を奨励したという主張になる。ただ個人的に気になったのが、儒教に対抗する価値基準として真っ先に浮かぶのは道教であって、事実、曹魏の時代は道教が草の根的に流行をしていたはずである。詩歌の流行は斯様な時代精神にも左右されるはずであり、となれば五言詩の流行と道教との関連性も気になる点である。そこで、私は僭越ながら矢田先生に質問をさせていただいた。矢田先生の見解によると、五言詩で確かに神仙に関連する詩が詠まれるケースは散見されるが、明確な関連性までは分からないとのことであった。
 政治と宗教(思想)は好もうと好まざるとに係わらず、お互いに関連しあって存在している。今後は政治体制だけでなく、当時の思想の流行も絡めた研究を期待したいところである。


2. 史実と民間伝承からみる三国志遺跡
 本発表は純粋な学術的な発表ではなく、普通の三国志愛好家が運営する管理人を招待しての発表である。記念すべき第1回目は「三劉」というサイトの管理人が研究発表を行なうことになり、これまで中国本土へ足繁く通った長年の体験発表を行なっていた(左図参照)。今回の発表は自らの足で情報を得るという点に於いて他の追随を許さない独自性ある発表であった。三国志ファンの底力を感じると共に、今回の発表を快諾した「三劉」の管理人に敬服する。
 だが一方で懸念がある。幾千もの三国志サイトがネット界隈に存在するが、果たして三国志学会という場での発表に耐えうるコンテンツを持ったサイトはどれほど存在するのか。そしてまた、優良コンテンツを持っている管理人が全て学会発表を快諾するとは思えない。かといって、敷居を低くしすぎると専門家の足が遠のき、一般の三国志愛好家との接点を失いかねない。この辺りの微妙な舵取りをどのように行なっていくのか、第4回の大会プログラムに注目したい。
3. 『三国演義』版本と三国歴史地理のデジタル化とその応用
 本講演は中国古代小説の版本研究や地図のデジタル化技術についての発表であり、今回は三国志演義を題材に話をしていただいた。中国古代小説には様々な異本が存在し、その異本がどのような派生を経てきたのかを研究するのが版本研究である。今回の技術の特徴は大きく分けて2つ。

(1)各版本の物語の構成及び本文の挿絵の違い等を容易に検索し、比較する事を可能にした。
(2)年代別の各人物の所在地をデータベースに入力する事で、各人物の足跡や戦役の分析を視覚的に捉えやすくなった。

一般人である私からしてみれば(2)の方が色々と応用が利きそうで面白いけども、どちらの技術も地道な手入力を要するハードワークである。データベースの完成には長い道のりが待っていそうである。


4. 満洲語『三国志』について
 本講演は満州語の三国志、及び満州語の盛衰についての講演であった。講演者の早田元教授は言語学を専門としていただけあって、満州族の国家である清が中国大陸を統一して覇権を確立した後、満州語が漢語に飲み込まれて消滅して行く過程の話は興味深かった。自らの国を征服した他民族の文化を内部から侵食し、破壊し、漢民族化していく中国の底力を感じざるを得なかった。まるでミイラ取りがミイラになる、と言わんばかりに。
 自国固有の文化を守り育てる大切さを感じる講演だった。


5. 諸葛亮をめぐる疑惑を解く
 実は今回の三国志学会で最も楽しみにしていた講演。諸葛亮は演義に於いて余りに神格化されすぎた為、正史ファンからはあれやこれやと悪く言われている。今回の講演ではそういう諸葛亮を巡る噂話をどのように捉えるのか、今後の史書を読む態度を考える上でも参考にしたかったのだ。
 今回の講演で対象となったのは「三顧の礼は存在しない」「諸葛亮は関羽を意図的に見殺しにした」という噂話。沈先生は一通りの反論を終えた後、

○論拠となる文献や他との整合性を示して批判しなさい。
○引用する文献の信頼性をよく吟味、比較しなさい。

という基本中の基本を指針として示し、「批判の為にする批判」の愚かさをばっさりと斬って捨てた。私も今回の講演を心に銘記し、史書を読み込んでいきたい。
周文業:「『三国演義』版本と三国歴史地理のデジタル化とその応用」
早田輝洋:「満洲語『三国志』について」
沈伯俊:「諸葛亮をめぐる疑惑を解く」
狩野先生への祝辞。
【狩野直禎会長傘寿記念行事】
 今年は三国志学会会長である狩野先生が傘寿(80歳)を向かえるということで、その記念行事が挙行された。最初に祝辞を述べた後、傘寿を記念して編纂された三国志論集が狩野会長へ贈呈された。
 ちなみにこの三国志論集、通常の定価は8000円だが、今回の三国志学会で購入すると半額の4000円というお買い得商品。内容は今回の発表内容を初めとして内容の濃い代物となっており、当然ながら三国志ファンとして私も購入した。

 なお、この後は記念パーティも催され、各参加者同士が楽しく談笑する有意義な時間となったようである。ちなみに私と小牧君は時間も半ばで退席させていただいた。後日談は9/15(月)の「管理人の一言」に記す。
三国志論集を贈呈。
花束の贈呈。